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技術革新はイノベーションにあらず 第2回 サイラス・マコーミック

中小製造業の経営者の方から、新製品についてご説明をいただく機会があります。従来品と比較して新製品の性能がどれだけ優れていて、お客様の業界のニーズを充たしているはずである。そして、その素晴らしい性能を実現するために、技術的な課題をどのように解決したのか、などなど、熱い思いを語っていただきます。

 

しばらくして、もう一度訪問しますと、経営者の方の顔色がすぐれません。「売れると思ったのだが、なかなか受注が来ない。性能は優れており、なぜ売れないのかがわからない。」

 

売れない理由はいろいろ可能性があります。そもそも、顧客に新製品が認知されていないのかもしれません。あるいは、認知はされていても、顧客が新製品の性能の差を価値として認めていないのかもしれません。あるいは、価値を感じていても、価格が高く手が出ないのかもしれません。

 

売れない理由を分析するのは重要です。そのような分析から、例えば、「顧客には製品は認知されており、顧客は性能の差を認識している。しかし、価格が高くて手が出ない」というような事実がわかってきたとします。

 

このような事実から、どのような対策が考えられるでしょうか。技術的に設計、生産方法、部材の調達方法を再検討し、性能を低下させることなく、販売価格を下げる。製造業としては、技術力の見せどころです。

 

19世紀半ば、サイラス・マコーミックも同じように悩んでいました。マコーミックは、収穫機を発明して会社を設立したのですが、なかなか売れませんでした。農家は人手をかけて収穫を行っていたのですが、収穫機の性能は人手の5倍ほどでした。農家にしてみれば、収穫機は喉から手が出るほど欲しかったのですが、先立つお金がなく収穫機を購入できませんでした。購入するには収穫を上げて収益を増やす必要がありましたが、それには収穫機が必要でした。マコーミックも、先に登場した中小製造業の経営者と同じジレンマに悩んでいたのです。

 

マコーミックは、このジレンマを解決するために、ある発明をしました。技術的に設計、生産方法、部材の調達を再検討し、性能を落とさずに、価格を下げたのでしょうか。そうではありません。彼が発明したのは「割賦販売」でした。この発明によってマコーミックの収穫機会社は成功をおさめ、彼の死後、いくつかのMAを経て世界有数の農業機械製造業ケース・インターナショナル・ハーベスター(ケースIH)として存続しています。

 

マコーミックの発明の影響は、彼の収穫機事業の成功に留まりませんでした。割賦販売というまったく新しい決済方法の出現により、米国人の消費行動が一変してしまったのです。

 

顧客の問題を解決するには技術以外のアプローチが有効な時もあります。技術という枠組みを超えた次元の異なる発想がイノベーションを生み出すことがあるのです。