技術革新はイノベーションにあらず 第1回 イリジウム衛星電話

「自社の技術には自信がある。それを強みとして素晴らしい製品をつくりたい。」

 

経営者や技術者の皆さまが口をそろえてこのように言われます。中小製造業の新製品開発やそのための資金調達(補助金獲得)の支援をさせていただく過程で、しばしば耳にする言葉です。製品スペックなどを確認いたしますと、確かに高度な技術が使用されており、機能も充実しています。しかし、それゆえに製造原価、製品価格が高くなっています。

 

技術革新だけでイノベーションが生まれるのでしょうか。

 

1958年の経済白書で初めて、イノベーションが技術革新と訳されたそうです。日本が高度経済成長をとげることができたのは技術によるところが大きかったわけですから、イノベーションを技術革新と訳しても違和感がなかったのでしょう。

 

しかし、必ずしも技術革新がイノベーションにつながるわけではありません。技術が革新的でも、技術以外の要因で失敗してしまうケースがあります。

 

例えば、東日本大震災の震災地で命綱として活躍したイリジウム衛星電話ですが、その市場導入は惨憺たるものでした。

 

イリジウム衛星電話は、1998年に、モトローラ社が出資して設立されたIRIDIUM LLCによって市場導入されました。77個の衛星を投入する衛星電話サービスとして計画されたことから、元素番号77にちなんでイリジウム衛星電話と名付けられました。結局は66個の衛星しか投入されませんでしたが、それでも技術の粋を集めた革新的な製品であったことには変わりはありません。

 

モトローラ社はイリジウム衛星電話に大きな期待を寄せていました。世界のどこでも、国を問わず、地形を問わず、ワイヤレスのコミュニケーションを提供する携帯電話として。

 

ところが、イリジウム衛星電話は惨憺たる結果に終わりました。イリジウム衛星電話は重たく、多くのアタッチメントが必要で、自動車やビルの中では使えませんでした。しかも、その価格は3,000ドルという高額でした。その当時、携帯電話の価格は約150ドル。携帯電話を捨ててイリジウム衛星電話に乗り換える理由はありませんでした。その結果、アメリカで数万台程度の契約数に留まり、通信衛星のインフラ投資の重荷もあって、IRIDIUM LLCは、サービス開始後1年ももたずに1999年に倒産してしまいました。

 

このように、技術革新だけでイノベーションが成功するとは限りません。イノベーションには技術以外の要素も重要な役割を果たすことがあります。技術革新の罠にはまらないようにしなければなりません。